KAFOからAFOへのカットダウン:最適なタイミングと注意点

KAFOからAFOへのカットダウン:最適なタイミングと注意点 理学療法

患者さんが退院後の自立した生活を送るために、長下肢装具(KAFO)から短下肢装具(AFO)への「カットダウン」が欠かせません。

しかしながら、現状ではこのカットダウンに関して明確な判断基準は存在していません。

増田もカットダウンに明確な基準はなく、可否の判断は質的評価を基になされると報告しています。

出典:
増田知子:脳卒中片麻痺患者における装具療法の進め方ーセパレートカフ長下肢装具の活用.日本義肢装具学会誌.2013;29:22-27

そうはいっても、普段の臨床でも出くわす場面も多いですよね?

この記事では、カットダウンの最適なタイミングと注意点を解説していきたいと思います!

文献や経験に基づいた内容になっていますので、ぜひ確認してみてください。


なぜカットダウンが重要なのか?

なぜカットダウンが重要なのか

KAFOからAFOへの移行は、リハビリをしていく上で重要なポイントになります。

あなた自身はその重要性をなんとなく理解しているかもしれませんが、実際に他の人に自信を持って説明することができますか?

もしこの基本がしっかりしていなければ、評価から具体的なアプローチに至るすべてのプロセスが不確かなものになってしまう可能性があります!

そこで、カットダウンのタイミングを学ぶ前に、まずはこの大前提となる部分をしっかりと復習し、正しい理解を再確認していきしょう。

長下肢装具は生活のゴールではないから

退院後の生活を視野に入れたリハビリでは、長下肢装具は「一時的なサポート」に過ぎません。

いくら長下肢装具で上手く歩けたからといって、そのまま退院することはできませんよね?

膝の動きを制限してしまうため、日常生活動作を行うのが困難になってしまいます!

そのため、退院後の生活を想定するなら短下肢装具への移行が必須となってきます。

もちろん身体機能的に転倒リスクが高く、短下肢装具ではアプローチがしにくい場合もあります。

適宜評価を行いながら、どんな装具を使用するのか検討していきましょう!

膝関節の運動学習を促進していくため

短下肢装具への移行は、膝関節の運動学習を促進していくためにも重要です。

長下肢装具は膝関節を固定し、股関節の学習を促すために効果的ですが、そのデメリットとして膝関節の動きを防ぎ、学習を妨げてしまいます。

これが影響して、日常生活での活動制限につながってしまう可能性も考えられます!

運動学習の一つとして、「特異性の原則」というものがあります。

「特異性の原則」とは、ある種の能力は同じ類の運動を用いたトレーニングにより効果的に高めることができるというものです。

出典:
市橋則明:臨床理学療法領域におけるコア・パラダイムー筋力トレーニングにおけるパラダイムシフトー.理学療法学.2015;42:695-696

短下肢装具でのリハビリも同じで、患者さんは長下肢装具では学習できない膝関節の動きを学習することができるようになります。

膝屈曲での大腿四頭筋やハムストリングスの収縮なども同じですね。

各患者さんの状態に合わせた最適なタイミングでのカットダウンが理想的な運動学習を促進し、リハビリの成果を最大化する鍵となってきます!


カットダウンで最重要な考え方

カットダウンで最重要な考え方

まず、どうして長下肢装具を使うのかといった目的を考えていくことが重要になります!

なぜなら、目的がないと効果判定を行うことができないからです。

「どうして長下肢装具を使ったのか」

そこが考えられていれば、それを達成した時に長下肢装具を外せば良いだけです。

体幹保持が目的であれば、それができれば長下肢装具でのリハビリは卒業ですよね?

評価→問題点の抽出→アプローチ→再評価

これは理学療法を行う上での基本原則ですが、意外と忘れてしまう人が多いです!

歩行練習でまずは体幹の支持性を高めたい。

だけど、股関節も膝関節もグラグラ。

そんな時には長下肢装具を使うといいでしょう!

長下肢装具を使うことで、膝の問題点を一時的に解消することができます。

療法士としては体幹と股関節の介助をしたらいいですよね?

そこでリハビリをして、歩行中も比較的体幹を正中位で保てるようになったら、長下肢装具から短下肢装具に移行すればいいのです。

まずは何のために長下肢装具を使うのか、何ができたら短下肢装具に移行するのか?

そこまで考えた上で長下肢装具を使っていくのがいいかと思います!


カットダウンを見極める3つのポイント

カットダウンのタイミングを見極めるためのチェックポイント

明確な基準は存在しませんが、以下の3つのポイントを評価することで安全かつ効果的なカットダウンのタイミングを判断できます。

  1. パッセンジャーユニットの安定性
  2. 股関節の安定性
  3. 膝関節の安定性

それぞれについて詳しく解説していきます!

パッセンジャーユニットの安定性

長下肢装具を使用する目的の一つは、パッセンジャーユニットの安定性を確保することです!

パッセンジャーユニットが不安定なままでは歩行の効率が低下し、ロコモーターユニットへの負担が増大してしまいます。

歩行中の身体は、パッセンジャーユニット(頭部・頸部・体幹・両上肢)とロコモーターユニット(両下肢・骨盤)の2つに分けられます。

パッセンジャーユニットとロコモーターユニット

本来、パッセンジャーユニットは安定していることが理想であり、ロコモーターユニットによって効率的に運ばれる状態が最も機能的です!

しかし、脳卒中片麻痺患者ではパッセンジャーユニットの安定性が低下することが多く、その結果、歩行時の負担が増し、異常歩行のリスクが高まります。

例えば、長下肢装具を使用せずに短下肢装具へ移行した場合、体幹や骨盤の安定性が十分でなければ、歩行時のバランスが崩れやすくなり、転倒の危険性が高まります。

また、姿勢が不安定な状態では、療法士の介助量が増え、患者自身の自立した歩行習得が遅れる可能性もあります!

このようなリスクを防ぎ、安全かつ効果的なリハビリを進めるためには、長下肢装具を活用してパッセンジャーユニットの安定性を確保しながら移行を進めることが重要です!

適切なタイミングを見極めながら、段階的にカットダウンを行うことで、安全で効率的な歩行獲得を目指しましょう。

股関節の安定性

股関節の安定性は、矢状面だけでなく、前額面や水平面と多面的な視点で評価することが重要です。

特に、臀部が後退する現象や側方へのふらつきは、短下肢装具へ移行した際に大きな問題となることが多く、注意が必要になってきます!

股関節の安定性が十分でないと、歩行時に必要以上の代償動作が生じ、ロコモーターユニットに過剰な負担がかかります。

その結果、転倒リスクが高まるだけでなく、異常歩行が習慣化してしまう可能性もあります。

しかし、完全に股関節の安定性が確立するまで長下肢装具でリハビリを続けてしまうと、退院期限が迫り、十分な移行期間を確保できない可能性があります。

そのため、リハビリの進行状況を適切に見極めながら、段階的に短下肢装具へ移行するタイミングを判断することが重要です!

具体的には、膝折れのリスク、歩容の安定性、介助量などを総合的に評価し、患者の状態に応じた柔軟な対応を行うことが望ましいでしょう。

例えば、短下肢装具に移行しながらも、一時的にknee braceを併用することで、股関節や膝関節の安定性を確保しつつ、徐々に独立した歩行を目指すアプローチも有効です。

安全で効果的なリハビリを進めるためには、長下肢装具を活用して股関節の安定性を高めつつ、適切なタイミングで短下肢装具へ移行するバランスが求められます。

患者さんの歩行能力やリハビリの進捗状況を考慮しながら、無理なく安全な移行を目指しましょう!

膝関節の安定性

短下肢装具への移行を考える際、体幹や股関節の安定性だけでなく、膝の安定性も重要です。

特に、膝が十分に安定していない状態で短下肢装具に移行すると、膝折れのリスクが高まり、安全な歩行が難しくなる可能性があります!

そのため、カットダウンの前に膝の状態を慎重に評価し、適切なサポートを検討することが必要です。

もし膝折れがあり、介助をしても歩行が難しい場合は、knee braceの併用を検討するのが適切です。

一方で、徒手誘導を加えれば歩行が可能な状態であれば、リハビリの一部を短下肢装具で行うことも選択肢として考えられます。

「歩行ができるから」といって安易に短下肢装具へ移行することは避けるべきです。

早期移行を意識することは大切ですが、その目的を見失ってはいけません。

長下肢装具を使用する目的は、介助量の軽減や歩容の改善です。

これらが十分に達成されていない段階で短下肢装具に切り替えてしまうと、結果的に歩行の質が低下し、患者のリハビリ効果が損なわれる可能性があります。

カットダウンのタイミングは、膝の安定性を含め、歩行能力やリハビリの進行状況を総合的に評価して決定することが重要になってきます!

職場の先輩や経験豊富なセラピストと相談しながら、慎重に進めることで、安全かつ効果的な移行を実現できるでしょう。


カットダウンをスムーズに進める方法

併用装具による安全な移行期間の設定

「長下肢装具から短下肢装具へのカットダウン」は、段階的に進めることが理想的です。

最初は評価レベルで短下肢装具を試し、少しずつ使用頻度を増やしていくのがポイントになります!

短下肢装具では十分な運動量を確保できない場合があるため、状況に応じた使い分けが重要です。

例えば、運動量を増やしたい場合は長下肢装具を活用し、歩行距離を伸ばす。

一方で運動学習を優先したい場合は短下肢装具を用い、短距離で動作の質を高める。

こうした柔軟な対応によって、無理なく短下肢装具への移行を進めることができます!

また、「長下肢装具では安定して歩けるが、短下肢装具ではまだ不安がある」という場合は、knee brace + 短下肢装具の組み合わせが有効です。

この方法なら、療法士の介助量を減らしながら安全により効果的なリハビリを実現できます!

最終的には、短下肢装具でも体幹や股関節の安定性が十分に確保できているか、徒手や介助での安定性が確認できるかといった基準をクリアしているかを判断します。

適切なステップを踏むことで、安全かつ効果的に短下肢装具への移行を進めていきましょう。


まとめ

長下肢装具から短下肢装具へのカットダウンは、患者さんが自立した生活を取り戻すための重要なステップです。

明確な判断基準がない中でも、患者さん一人ひとりの状態を丁寧に評価し、柔軟に対応することが求められます。

臨床経験とエビデンスを活かし、最適なタイミングでのカットダウンを実現することで、より質の高いリハビリテーションを提供しましょう。